美しくもがく、羽ばたく虫けら達の物語 『スワロウテイル』
最近暖かくなり、春の到来を感じる。春は始まりの季節だ。
就職の決まった友人たちは、社会への進出を控え、学生生活の余韻を楽しんでいる。
対して、私の進路は大学院への進学である。先日、合格通知を受け、人生の重要な転機となった。
大学院に受かったことは感涙の至りだが、この大きな節目を前にして、新しい環境に身を移す事について、もちろん入社する友人たち程ではないだろうが、それでも不安な気持ちは抑えきれない。
そこで、今回はそんな、私の未来への不安を発散させてくれた映画の紹介と感想を述べていく。
(観る人の感性によって感想は異なる為、ご注意下さい。)
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『スワロウテイル』
公開 / 1996年9月14日
監督 / 岩井俊二
脚本 / 岩井俊二
音楽 / 小林武史
主題歌 / YEN TOWN BAND 「Swallowtail Butterfly ~あいのうた~」
上映時間 / 149分
▶あらすじ
世界で“円”が最も強かった頃という、架空の時代を辿った世界観において、一攫千金を狙った移民たちで溢れる“円都(イェンタウン)”と呼ばれる街があった。
日本人たちは棲みついた異邦人たちを“円盗(イェンタウン)”と呼び蔑んだ。
そんな、イェンタウンに棲む、イェンタウン達の物語。
▶感想
20年前の作品だが、今観ても古臭さや時代遅れのようには感じない。それどころか冒頭から映画の世界観と織り成す雰囲気に引き込まれた。
ノスタルジーで退廃的、アンダーグラウンドなイェンタウンの雰囲気や日本語、中国語、英語の3ヶ国語を混ぜた特殊な会話などによって、不思議と登場する人々が皆リアルな異邦人であるかのように錯覚してしまう。
役者たちの中国語、英語が上手いのも一因だろう。外国人役者の日本語が流暢なのも雑多な、多国籍感ある空気を出すのに一役買っている。
私は映像技術についての知識がないが、映画の独特の空気感を生み出しているのは、カメラワークと音楽の組み合わせが大きな要因になっているように思える。
危ういシーンで突然に音楽が強く響いたり、そうかと思うと急に無音になったりと抑揚がある。場面の動き方と相まって、まるでPVを観ているような臨場感が出ており、気が付くと映画の世界に飲み込まれていた。
岩井俊二の作品は、映像美が特徴的だという話をよく聞くが、その通りだと思う。
これらのことから、雰囲気映画と言われることも多いようだが、この映画の魅力は他にもある。例えば、登場人物の魅力も注目点である。
伊藤歩(アゲハ役)は幼いながらも色気があり、美しさや儚さ、危うさといった不安定さが醸し出ている。
CHARA(グリコ役)は一本心が通った強さがあるが切なさも滲み出ており、思わず惚れそうになる。ていうか単純に可愛い。好きになる。
どこまでも真っ直ぐな三上博史(フェイホン役)の格好良さ。
狂人のような面と面倒見のよい優しい面の両方を持った江口洋介(リョウ・リャンキ役)。魅力を挙げるときりがない。
そんな彼らが、ストーリーに合わせて物語が出来たのではなく、登場人物たちが勝手に動いてストーリーが生まれたようにすら思える。
挿入歌も良い。グリコ演じるCHARAの歌声は思わず聞き惚れる。
映画内でCHARAが活躍する架空のバンド「YEN TOWN BAND」は、主題歌「Swallowtail Butterfly ~あいのうた~」で実際にデビューし、当時のオリコンシングルチャートで1位を獲得して話題となったようだ。
また、トランプ大統領の政策によって移民問題が取りざたされることの多い昨今において、移民を受け入れない日本が制作した移民問題を扱った映画というだけでも観る価値があるだろう。
無慈悲で救いのなく、登場人物たちが時に虫けらのように扱われるシーンもあるが、彼らの活き活きとした姿勢からは、生きるということの美しさが切なく伝わって来て、未来への希望が奮い立ってくる。
鑑賞後に残る余韻が、寂しいようでいて心地よい、そんな映画だった。
私も彼らのように、苦しいときも明るく、力強く生きていきたい。