Money Theater

アングラ映画の紹介・解説と日常の憂鬱

『早熟のアイオワ (The Poker House)』 紹介と感想

『ラ・ラ・ランド』が話題によく挙がる今日この頃だが、流行にめげずアングラ映画の紹介をしていこう。

 

今回は、『X-MEN:アポカリプス』などで若き日のレイブン・ダークホルム(ミスティーク)役を演じるジェニファー・ローレンスの初主演作、『 早熟のアイオワ(The Poker House) 』について語りたい。

 

1年くらい前に観て大好きになった映画なのだが、語る機会に恵まれなかったのでこの場をお借りする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二大若手女優の原点!

『 早熟のアイオワ (The Poker House) 』

 

公開/ 米:2008年6月20日・ 日:2014年2月22日

監督/ ロリ・ペティ

脚本/ ロリ・ペティ、デヴィット・アラン・グリア

原作/ ロリ・ペティ

出演/ ジェニファー・ローレンスセルマ・ブレアクロエ・グレース・モレッツ、ボキーム・ウッドバイン

音楽/ マイク・ポスト

製作/ マイケル・ドゥベルコ

撮影/ ケン・セング

上映時間/ 93分

製作国/ アメリカ合衆国

 

 

▶あらすじ

1976年、アイオワ州のカウンシルブラフス。

この小さな町で14歳のアグネス(ジェニファー・ローレンス)は幼い2人の妹と“ポーカーハウス”と呼ばれる家で暮らしていた。

夜になると、家にはポーカー賭博や売春目的の男たちがやってくる。

母親のサラ(セルマ・ブレア)は、恋人のデュバル(ボキーム・ウッドバイン)に言われるままに売春を繰り返し、しかも、アグネスにまでも売春を強要する。

劣悪な環境に生きながらも、希望を見出そうともがく姉妹の物語。

シネマトゥデイ参考)

 

 

 

 監督の少女期の実話

ブレイク前のジェニファー・ローレンスロエ・グレース・モレッツが出演しているということで、彼女たちのファンからしたら有名な映画なのではないだろうか。

また、俳優ロリ・ペティが自らの少女期の経験に基づいて監督・脚本を行った、自叙伝的な作品でもあり、なかなかに気になる背景が多い映画だ。

 

しかし脚本としてみると、映画的な演出や盛り上がりに欠け、ゆっくりと漂うように主人公たちの人生が進行している印象だ。

なので、ストーリー自体は大味な気もするが、不思議と中だるみがなく退屈はしない。

それどころか、まるで物語に血の通っているようなリアルさがある。

 

 

 

役者のリアルな演技力

物語に血を与えた重要なポイントは、役者の演技力にあるだろう。

 

特に、と言うか、やはり、ジェニファー・ローレンスが素晴らしい。 

母親の恋人・デュバル(ボキーム・ウッドバイン)に対してみせる純粋な恋心と、母への暴力を憎む、矛盾した気持ち。

「今日のバスケットの試合に勝てば州大会に出られる!」と子供のようにはしゃぐ面。

姉として妹たちを守り、自堕落な母親を軽蔑しながらも家から離れられない、家族の中での顔。様々な表情が観られる。

 

そんな、若干14歳でありながら、生きる為に大人になるしかなかったアグネスの不安定な心境と、その成長を見事に表現している。

ただ、ジェニファー・ローレンスを見ていると「絶対に転落なんてしないだろう、まず大丈夫だ」といった天才感も微かに感じる。

 

“準決勝がある 人生で一番大切な試合よ”

“甘くて優しいキス ママを殴る男とは思えない 私を愛しているからこんな優しいキスを・・・”

“頭にあるのは今日 そして今夜のことだけ 今夜はすてきな夜だ”

 

 

 

アグネスの一番下の妹、キャミ―役を演じるクロエ・グレース・モレッツは、観ていて思わず泣きそうになる。

家に居たくなくて友達の家に寝泊まりし、その家の父親に朝食に連れて行ってもらう。そんな友達の父に対して「あなたが父親なら良かったのに」と漏らす。

しかし、この父親を含めてこの街の大人たちは自分勝手で、周りの不幸に無関心なのだ。

優しかったり、気が良かったりするが、本当の意味で手を指し伸ばしてはくれない。

時間潰しの為に常連のバーでジュースにさくらんぼを入れながら、そんな大人達を寂しそうに眺めている。悲しそうな表情に胸が締め付けられる。

 

“何で大人は愛していない人に愛してるっていうの?まるで何かをごまかすために言っているみたい(中略)もうジュースはいらない 家に帰りたい”

 

 

 

また、セルマ・ブレア(サラ役)の、3人の娘を持つ母親にも関わらず自堕落に生きる、ビッチで自己中な母親の演技も印象的だ。

毎晩男を家に入れ、娘の前で子供のように癇癪を起し、ドラックを吸う。

そのくせ、分かったようなことを言い、実の娘に対してマウントを取りたがるところなんて最低で最高だ。

 

“みんな好き勝手に私のものを奪っていく 私からね (中略)

なによ また母親をバカにするの? 何でも分かったような顔してるけど実際は何もわかってない バカにしてないわ ごまかしてもムダよ …出掛けたら?”

“いいことを教えてあげる 今朝の客は うまかった だから決心したらママに教えて 体を売るしかないんだから 最初くらい いい男を そろそろ決める時期よ”

 

成績も、バスケット選手としても優秀な将来有望のアグネスに対して、こんなことを平気で言う。

ただ、母親も最初からこうだったわけではなく、そうなってしまった理由がある事が辛いところだ。

 

シンプルなストーリーを、役者の迫真の演技で、ドラマチックに鬼気迫ってくる。

ただ、アグネスの同世代の交友関係が、男友達についてしか描かれなかったのが少し残念だ。

 

 

 

心地いいラストシーン

最後に触れたいポイントは、ラストで三姉妹が車のカッセトテープにのせて“Ain't No Mountain High Enough”歌うシーンだ。

この場面が最高に良い。

これまでの鬱憤をそこで全て晴らすかのように、三姉妹がノリノリで熱唱している。

絶望のどん底から這い上がる、明るい未来を暗示しているようでカタルシスを得られる。

この歌自体も非常に良いものなので、お勧めである。